もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

タイトル通り、経営学の基礎とも言えるドラッカーの「マネジメント」を高校野球の女子マネージャーが読んで、野球部のマネジメントをしていったら、という小説です。軽いタッチの小説で有りながら随所に「マネジメント」の内容がわかりやすく引用されていて、楽しみながら学べる新たなコンテンツに仕上がっていると思いました。物語自体は単純でわかりやすいのですが、エンターテインメント業界で学ばれた著者だからか、どこか人を惹きつけるところがあって、恥ずかしながら最後に泣いてしまいました(笑)。この表紙で泣いているところは絶対に見られたくないですね。

さて、この本で取り上げられている「マネジメント」ですが、私は20代の頃に読みました。いたく感じ入ったことを今でも覚えています。経営とは、組織とは、人とは、会社とは、それら全ての答えがそこには有りました。随分読み込んだ覚えがあります。ですが、本書で引用されている部分を改めて読んでも半分も覚えがなかったのが情けないところです。すっかり忘れてしまっていて、改めて感動してしまいました。

人を管理する能力、議長役や面接の能力を学ぶことはできる。管理体制、昇進制度、報奨制度を通じて人材開発に有効な方策を講ずることもできる。だがそれだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。

あー、そうです、これは思い出しました。「マネジメント」を読んだときにも感動した一節でした。真摯さ。この言葉はとても重たいですね。人としてこれを忘れずにいたいと思います。

企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それが、マーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。

これは前半の「顧客の創造」は覚えていましたが、後半のマーケティングとイノベーションは忘れていました。シンプルながら深い言葉ですね。

マーケティングは、販売に関する全職能の遂行を意味するに過ぎなかった。それではまだ販売である。われわれの製品からスタートしている。われわれの市場を探している。これに対し、真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち、現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。

これは何度も何度も自分に問いかけたい命題です。常にこの問いかけをし続けなければ我々は容易くこれを忘れてしまうからです。

成長には準備が必要である。いつ機会が訪れるかは予測できない。準備しておかなければならない。準備ができていなければ、機会は去り、他所へ行く。

これはすっかり忘れてしまっていた一節ですが、とても心に響きました。40代になって機会が少なくなっていることや成長が鈍化していることなどが頭にあるからかもしれません。

真摯さを絶対視して、初めてまともな組織といえる。それはまず、人事に関わる決定において象徴的に表れる。真摯さは、とってつけるわけにはいかない。すでに身につけていなければならない。ごまかしがきかない。ともに働く者、特に部下に対しては、真摯であるかどうかは二、三週間でわかる。無知や無能、態度の悪さや頼りなさには、寛大たりうる。だが、真摯さの欠如は許さない。決して許さない。彼らはそのような者をマネジャーに選ぶことを許さない。

またも、真摯さ、です。原文では何と書いてあるのか気になります。フェアでしょうか、ジェントルでしょうか、シンシアでしょうか。

成果よりも努力が重要であり、職人的な技能それ自体が目的であるかのごとき錯覚を生んではならない。仕事のためではなく成果のために働き、贅肉ではなく力をつけ、過去ではなく未来のために働く能力と意欲を生み出さなければならない。

ともすれば行きすぎた成果主義の反省の元、プロセスを重視するきらいがありますが、成果こそがすべての活動の目的であることを改めて認識して行動すべきだと感じます。

以上、ざっと引用してみましたが、これらの言わば経営における神の啓示のごとき名文が上手に小説の中に取り込まれていることがこの本の最大の魅力であると思います。新たなエデュテインメントと言っていいと思います。最近、古典を漫画で読ませるのが流行りつつありますが、小説でもここまで上手にできることは驚きです。とはいえ、他の経営書を二番煎じで作れるかというとなかなか難しいだろうなと思うわけで、これはひとえにドラッカーの「マネジメント」が普遍的な良書であるが故なのだと思わざるを得ません。
面白いなと思ったのは、本書の印税の10%がドラッカーに関連する機関・団体に寄付される、という仕組み。これは本書の成り立ちからも多くの引用からもそうあるべきだと納得できるところですが、実際に実行するというのがとても素晴らしいと思えるわけです。多くの書籍が他の書籍を引用しておきながら引用したと注記するだけで終わっていることから考えると、一種の書籍の(知の)二次流通とも言える形がここにはあると思うからです。同じ出版社だからこそかもしれませんが。

これはNHKあたりでドラマ化いや装丁からすればアニメ化してもいいんじゃないかなと思います。「もしドラ」の名前で結構視聴率取れると思います。

装丁やタイトルから話題性だけの本かと思っていたのですが、いやいや、なかなかしっかりとした骨組みのもとに作られた傑作と言っていいと思います。一日で読めるので週末のお供にお勧めします。

最後に、参考文献である「マネジメント」へのリンクを貼っておきます。私ももいっかい買って読もうかな。

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